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ミルクボーイ「コーンフレーク」で見る、あるあるの往復構造

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何のネタか

ミルクボーイ(内海崇・駒場孝)が、M-1グランプリ2019の決勝で1本目に披露した漫才が「コーンフレーク」です。

このネタは 681 点を記録しました。審査員 7 人時代の史上最高得点です。しかもミルクボーイは、このとき決勝初出場でした。決勝に初めて上がったコンビが最高得点を出し、そのまま優勝する——という結果になっています(『M-1グランプリ』ミルクボーイが史上最高点を記録 初出場コンビが快挙 - ORICON NEWS)。

採点の内訳は、次のとおりです。

審査員
ナイツ・塙宣之99
上沼恵美子98
オール巨人97
立川志らく97
サンドウィッチマン・富澤たけし97
松本人志97
中川家・礼二96

(採点内訳の出典:M-1グランプリ2019 - Wikipedia

なお、優勝を決めた最終決戦で披露されたのは「モナカ」という別のネタです。この記事で扱うのは、1本目の「コーンフレーク」だけです。

構造を抜く

ここからは、ネタの中身ではなく、中身を載せている「器」のほうを見ていきます。

まず、正体のわからないものを一つ立てます。 おかんが好きな朝ごはんの名前を忘れた、という形で、正体不明のものが会話の中心に置かれます。以降のやりとりは、すべてこの一点に向かって流れていきます。

そして、往復の型がひたすら反復されます。 特徴が提示される → 断定が入る → 否定材料が出る → 撤回される。この 1 往復が、最後まで同じ形で繰り返されます。中身は毎回入れ替わりますが、器は一度も変わりません。

フリとオチの距離が、限界まで縮まっています。 通常の漫才は、フリを積み重ねて最後に落とす——つまり大きな山を一つ作ります。このネタはそうしません。1 往復ごとにオチが立つ。「刻み」が極端に細かいのです。

最初の 2〜3 往復で、観客に型を学習させています。 一度この形を覚えてしまえば、観客は以降「次はどう転ぶか」だけを見ていればよくなります。何が起きているのかを理解し直す必要がない。認知の負荷が落ちるぶん、笑いの立ち上がりが速くなります。

山を作らず、同じ高さのパルスを打ち続けます。 振幅は最後まで一定です。ふつう「同じことの繰り返し」は飽きの原因になりますが、このネタはそれを武器のほうへ転化しています。

どのパターンが入っているか

この器の中で動いているお笑いデザインパターンは、1 つだけです。

あるあるパターン 提示される特徴は、そのまま「コーンフレークあるある」として機能します。観客がすでに知っている性質を並べていくので、聞いた側には共感が立ちます。あるあるパターンの記事で書いたとおり、「それ、わかる!」という共感が、そのまま笑いに変わる型です。

19 の型を並べた図鑑を持ち出しておいて、当てはまるのは 1 つ。物足りない結果に見えるかもしれません。

ですが、この記事の面白いところは、そこから先にあります。当てはまらない型を、はっきり 3 つ挙げられる。しかもそのうち 1 つは、名前が似ているせいで当てはまりそうに見える型です。次の節で、その 3 つを順に見ていきます。

どのパターンでもない部分

当てはまらない箇所は、2 か所あります。ひとつは反復のさせ方、もうひとつは否定材料の使い方です。

論点 A:この反復は、反復系 2 型のどちらでもない

図鑑には反復系の型が 2 つあります。節 2 で見た「同じ型を何度も打つ」という反復は、そのどちらでもありません。

天丼パターンではありません。 天丼は「同じボケを、間を置いて、もう一度出す」型です。効かせる鍵は間(ま)のほうにあります。コーンフレークは間を置きません。しかも繰り返されているのは同じボケではなく、同じです。中身は毎回変わります。

エスカレートパターンでもありません。 エスカレートは、繰り返すたびに倍率が上がっていく型です。増えていくこと自体が笑いになります。コーンフレークの倍率は上がりません。振幅は最後まで一定です。

残るのは、次の構造です。

型を固定し、中身だけを入れ替えて反復する。振幅は一定に保つ。

天丼は「間」を動かし、エスカレートは「倍率」を動かします。これはどちらも動かさない。動かすのは、器に入れる中身だけです。図鑑の反復系 2 つでは、この形を説明できません。

そこで、この記事では仮に「型反復(かたはんぷく)パターン」と呼んでおくことにします。

ただし、扱いには注意してください。

  • これは odp が仮に置いた名前です。「仮称」であり、確定した呼び名ではありません
  • 既存の演芸用語との照合は、まだ行っていません。 同じ構造を指す言葉が、すでに別の名前で存在している可能性は十分にあります。業界の標準用語として受け取らないでください
  • 別のネタでも同じ構造が観察できれば、そのときに型として独立させる予定です。1 本のネタだけを根拠に型を立てるのは、図鑑としては早すぎます

論点 B:否定材料は「ないない」ではない

もうひとつが、往復の後半に出てくる否定材料です。

これはないないパターンに見えます。「ない」という語が共通しているのだから「ないない」だろう、と。ですが、噛み合っていません。

ないないパターンの記事に戻って、定義と成立条件を突き合わせてみます。

odp の「ないない」コーンフレークの否定材料
出すもの非実在の誇張実在する事実(その候補には無い性質)
出し方告知しない否定材料として明示的に提示する
構造あるある 2 連+3 つ目=三段落ち1 往復ごとの肯定と否定
狙う反応「ねーよ!……でもわかる」「それは違う」という確認

決定的なのは「出し方」の行です。ないないパターンの記事は、3 つ目を非実在へすべらせるとき、そうと悟らせないことが成立条件だと書いています。文体が急に大げさになった瞬間に「はい、ここから作り話です」と看板を出すのと同じで、裏切りが成立しなくなる、と。

コーンフレークの否定材料は、その逆です。隠されません。否定材料として、はっきり差し出されます。差し出されること自体が型の一部になっています。

「ない」という語が共通しているだけで、やっている操作が別物です。名前が似ている型ほど、タイトルや説明文だけを見て当てはめると事故ります。定義と成立条件まで降りて、初めて違いが見えました。

では、これは何なのか。odp の 19 型には、この否定材料の使い方を指す名前が、まだありません。

論点 A と違って、ここには仮称を置きません。「当てはまる型が無い」という観察までは済んでいますが、その先——では何と呼ぶべき構造なのか——の抽出がまだ済んでいないからです。1 本の記事で仮の名前を 2 つ置けば、図鑑のほうが安くなります。名前は、構造が見えてから付けます。

論点 A の仮称も、論点 B の「名前がまだ無い」も、ネタを重ねて初めて答えが出ます。この記事は、その 1 本目にあたります。

観るには

このネタは『M-1グランプリ2019〜史上最高681点の衝撃〜』に収録されています。決勝と敗者復活戦のほか、大会の裏側を追った Another Story の再編集版と、ミルクボーイの新作漫才が入っています(「M-1グランプリ2019」DVD化、大会舞台裏やミルクボーイのネタ作り密着企画も - お笑いナタリー)。

M-1グランプリ2019~史上最高681点の衝撃~ [DVD]

本記事で扱った決勝1本目を収録。構造を追うには繰り返し観られる形が向いています。

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