具体的なパターンに落とし込む
お笑いの理論や法則は数多くありますが、その多くは定義のために抽象化されています。抽象的な表現は学術的な説明には向く一方、ふつうの人がふつうに使おうとすると、とたんに難しくなります。
そこでこのサイトでは、そうした法則を含んだ笑いを「具体的なパターン」として説明します。型として知っておけば、会話・文章・コンテンツづくりで再利用できます。
お笑いデザインパターン一覧
このサイトでは笑いの型を「お笑いデザインパターン」と呼び、次のように整理します。
- 共感を生む「あるあるパターン」
- 共感で裏切る「ないないパターン」
- 建前の裏からこぼす「本音ダダ漏れパターン」
- 自分を下げる「自虐パターン」
- 上げてから落とす「上げて落とすパターン」
- 乗ってから突っ込む「ノリツッコミパターン」
- 一人二役で落とす「セルフツッコミパターン」
- 別ジャンルに飛ばして切る「例えツッコミパターン」
- 倍率だけ嘘をつく「誇張パターン」
- お決まりで安心させる「お約束パターン」
- ズレたまま泳がせる「勘違いすれ違いパターン」
- 振りを重ねて落とす「三段落ちパターン」
- 期待を外す「スカシパターン」
- 知らないふりで通す「とぼけパターン」
- キャラで裏切る「ギャップパターン」
- 上下を入れ替える「立場逆転パターン」
- 繰り返して効かせる「テンドンパターン」
- 倍率を上げて畳みかける「エスカレートパターン」
- 流行を取り込む「トレンドパターン」
あるあるパターン
あるくくりの中の「ありがちなこと」を挙げ、共感によって笑いを生むパターンです。たとえば「サッカー部あるある」「在宅勤務あるある」のように、同じ経験を持つ人なら思わず頷いてしまうネタが当てはまります。テレビでも「〇〇芸人」が集まって「〇〇あるある」を語る形式は定番です。
ないないパターン
あるあるを2つ重ねて頷かせてから、3つ目だけ実在しない誇張へスライドして「ねーよ」を引き出すパターンです。「月曜の朝は体が重い」「コーヒーも効かない」——「駅までの坂、月曜だけ角度が増してる」。共感の貯金を裏切りで使う、あるあると三段落ちのハイブリッドです。
本音ダダ漏れパターン
立派な建前を言った直後に、小さな本音が漏れる二層構造のパターンです。「全然大丈夫です、お気になさらず。(三年は根に持つ)」——建前が立派なほど、短い本音の落差が効きます。括弧書きや注釈や打ち消し線で仕込める、書き言葉ともっとも相性のいい型です。
自虐パターン
自分の失敗やコンプレックスを先に自分でさらけ出して笑いに変えるパターンです。「方向音痴すぎて、ナビがあっても遅刻する」のように、弱点を隠さず言ってしまう。うまく使えば、コンプレックスがそのまま武器になります。
上げて落とすパターン
本気の賞賛や期待でテンションを持ち上げてから、最短の一言で急落させるパターンです。「ジム、完全に習慣になった。……行かないことが」。フリの上げ幅がそのまま笑いの振れ幅になります。落とす対象は自分か状況に限る——ここだけは絶対のルールです。
ノリツッコミパターン
ボケにいったん乗っかってから、「いや、そんなわけあるか」と自分で突っ込んで落とすパターンです。たとえば友人の「宝くじが当たったら会社辞める」に、「じゃあ俺は世界一周だな……って、まだ当たってないわ」と乗ってから戻す。技術は要りますが、決まると大きな笑いになります。
セルフツッコミパターン
威勢よく言い切ってから半拍おいて、自分で突っ込んで落とすパターンです。「今日から毎朝ランニングする。……去年も言ってたわ」のように、ボケの製造も回収も自分。スベっても自分で拾える保険付きなので、日常でもっとも安全に始められる型です。
例えツッコミパターン
対象から尖った特徴をひとつだけ抜き出し、その特徴を共有する遠いジャンルの具体物に飛ばして「〜かい」と短く切るパターンです。荷物を詰め込みすぎてパンパンになった通勤鞄に「冬季エベレストの装備かい」と返すように、特徴が的確に一致していて、なおかつジャンルが遠いときにいちばん効きます。ノリツッコミが時間で落差を作るのに対して、こちらは距離で落差を作る型です。
誇張パターン
事実の方向は変えずに、倍率だけを一気に上げるパターンです。待ち合わせにいつも早い人に「たぶん前日から居る」。中途半端に盛ると嘘になり、誰も事実と受け取らない倍率まで振り切って初めて笑いになります。例えツッコミが「写像」なら、こちらは同じ軸の「スケールアップ」です。
お約束パターン
「この状況なら、こうなる」という定番の展開で、予定調和の安心感から笑いを生むパターンです。バナナの皮で滑る、フリ(前振り)を立ててきっちり回収する——先が読めているからこそ、その通りになると気持ちよく笑えます。鍵は「振り」を丁寧に置くことです。
勘違いすれ違いパターン
二人が別々の前提のまま会話を続け、聞き手だけが両方の勘違いを見えているパターンです。「退職する田中さん」は部長なのか二年目なのか——ズレたまま会話が泳ぐ時間が長いほど、発覚の瞬間は大きく笑えます。日常では、気づいても一往復だけ泳がせてから種明かしするのがコツです。
三段落ちパターン
3つの事柄を並べ、最初の2つをフリ、3つ目をオチにするパターンです。「財布、スマホ、そして……心を家に忘れてきた」のように、2つで流れを作り、3つ目で予想を裏切ります。人は同種のものが2つ続くと3つ目も同種だと期待するので、その期待を外します。
スカシパターン
本来なら当然ふれるはずのことを、わざとタイミングよく無視して期待を外すパターンです。全員がオチを待っている場面で、あえてそこに触れずに流す。お約束や三段落ちで「予測される展開」の逆を取る使い方が多いパターンです。
とぼけパターン
明らかに知っていることを、真顔のまま「知らない」で通すパターンです。スマホでそのニュースを読みながら「え、そんなニュースあったの?」。フリは聞き手の中の「絶対知ってるだろ」という確信が作るので、仕込みはゼロ。海外でデッドパン(真顔芸)と呼ばれる様式と同じエンジンです。
ギャップパターン
見た目・肩書き・普段のキャラが周囲に作っている予測を、逆側の一点で裏切るパターンです。強面の部長のメッセージが絵文字だらけ——属性そのものが仕込み済みのフリなので、喋らずに発動できます。キャラが固い真面目な人ほど、強い武器になります。
立場逆転パターン
親と子、店員と客。社会が決めた役割の上下を堂々と入れ替えるパターンです。小学生の子が腕を組んで「お父さん、スマホは1日1時間」。フリは社会通念が用意してくれるので、説明ゼロで通じます。コントの設定製造機としても王道の型です。
テンドンパターン
一度ウケた(あるいはスベった)印象的な一言を、少し時間を置いてもう一度出して笑いを生むパターンです。会話の序盤で印象に残ったフレーズを、後の別の話題でさりげなく再登場させる。コストが低く決まりやすいので、とても使い勝手のよい型です。
エスカレートパターン
同じ行為を、繰り返すたびに倍率を上げて畳みかけるパターンです。差し入れが飴1個→箱菓子→米俵。1・2回目で「増える法則」を学習させ、3回目で傾きを暴走させます。天丼が「忘れた頃に出す」なら、こちらは「覚えているうちに攻める」型です。
トレンドパターン
いま流行っているフレーズやモノマネを取り込んで笑いにするパターンです。仕組みはシンプルですが、鮮度が命。旬を過ぎると一気に効かなくなる、もっとも「時事依存」が強いパターンでもあります。だからこそ「使うタイミング」が成否を分けます。
お笑いデザインパターンを意識してみよう
ここまで、それぞれの型をざっと紹介しました。どの型の中にも、笑いの法則や公式が含まれています(詳しい解説は各パターンのページで行います)。
ふだんは意識せずに笑っていたお笑い番組も、これらの型を意識して見ると、構造が見えてきます。いつもと違う角度から眺めることで、新しい感覚が得られるはずです。そしてそれは、「お笑いを届ける側」への第一歩なのかもしれません。